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Feynmanダイアグラムを描いてみた ーPart3ー(Feynman 核のEuclid化)

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$$\def\bra#1{\mathinner{\left\langle{#1}\right|}}$$ $$\def\ket#1{\mathinner{\left|{#1}\right\rangle}}$$ $$\def\braket#1#2{\mathinner{\left\langle{#1}\middle|#2\right\rangle}}$$

前回までのキーワード:Feynman核

前回はFeynman核\(K(x,x_0;t,t_0)\)を定義した。これは波動関数と$$\Psi(t,x)=\int_{-\infty}^{+\infty} d^3x_{0}K(x,x_0;t,t_0)\Psi(t_0,x_0)$$のように結びついており、Feynman核は波動関数を考える上で基本的な量であることがわかった。

 

今回はこのFeynman核に一手間加えることで統計力学的にも基本的な量であることを見てみよう。

まず、統計力学についてざっくり説明するとミクロな対象(水分子や気体分子とか)をたくさん(だいたいAbogadro数\(\sim10^{23}\)個くらい)かき集めてマクロな世界(海とか大気のような)を考えましょう、という理論である。その時に一個一個がもたらす影響をいちいち細かく考えていたら(粒子数があまりに多すぎて)あまりに大変なので統計的にそれらを扱うので”統計”という名前がついている。

主に統計力学ではマクロな系が持っているエネルギーなどを計算するが、その時に用いられる基本的な量が分配関数と呼ばれるものである。例えば量子力学な系を考えてそのエネルギー準位が\(E_n\)で与えられている時、分配関数\(Z(\beta)\)は以下のように与えられる。$$Z(\beta)=\sum_{n=0}^{n_{max}}e^{-\beta E_n}$$

ここにでている\(\beta\)は逆温度と呼ばれ温度\(T\)との間にBoltzman定数\(k_B\)を介して\(\beta\equiv \frac{1}{k_BT}\)の関係を持つ。ここでは先ほど言ったエネルギー準位\(E_n\)の量子系(例えば調和振動子とか)を\(n_{max}\)個かき集めている事になる。

この分配関数が(統計力学の)系のエネルギーにどう結びついているかというと、実際統計力学で求めたい量がエネルギーだと一言に言っても系を構成しているミクロな対象はたくさんあるので系全体が持つことができるエネルギーにはばらつきが生じる。そのためエネルギーそのものではなく、その系が持つエネルギーの”平均値”を求めるのが良い。このエネルギーの平均と分配関数は$$\begin{align}<E>&=\frac{\sum_{n}E_ne^{-\beta E_n}}{\sum_{n}e^{-\beta E_n}}\\ &=-\frac{d}{d\beta}logZ(\beta)\end{align}$$という形で結びついている。

このように分配関数は各マクロな系を特徴付け、自由エネルギー等の熱力学量を計算するための基本となる大事な量である。

 

ではこの分配関数を実際に量子力学的に考えてみよう。分配関数の中に含まれている量子系のエネルギー準位\(E_n\)はもちろん対応するHamiltonianのエネルギー固有値であるから、分配関数は$$\begin{align}Z(\beta)&=\sum_{n}e^{-\beta E_{n}}\\ &=\sum_{n}\bra{n}e^{-\beta \hat{H}}\ket{n}\\ &=\sum_{n}\int_{-\infty}^{+\infty}d^3x\braket{n}{x}\bra{x}e^{-\beta\hat{H}}\ket{n}\\ &=\int_{-\infty}^{+\infty}d^3x\bra{x}e^{-\beta \hat{H}\left(\frac{\hbar}{i}\nabla, x, t\right)}\ket{n}\braket{n}{x}\\ &=\int_{-\infty}^{+\infty}d^3x\bra{x}e^{-\beta \hat{H}\left(\frac{\hbar}{i}\nabla, x, t\right)}\ket{x}\end{align}$$とすることができる。

 

ここで被積分関数を見てみるとFeynman核\(K(x,x_0;t,t_0)=\bra{x}e^{-\frac{i}{\hbar}\hat{H}(t-t_0)}\ket{x_0}\)に形がよく似ている。\(t_0=0,t=T,x_0=x\)と置いてやると指数関数の位相部分を除いてピッタリ一致する。しかし問題はFeynman核の場合位相が\(\left(-\frac{i}{\hbar}\hat{H}T\right)\)と虚数単位を含んでいる一方で分配関数の場合には\(-\beta \hat{H}\)と虚数単位がない。「この類似はただの偶然だったのか・・・」と諦めたくなるがここで時間を虚時間に置き換えるという大胆不敵な作戦にでた時にこの問題は解消する。つまり実数である時間\(T\)を$$T\to -i\hbar\beta$$という風に置き換えると両者は一致し、Feynman核は分配関数と$$Z(\beta)=\int_{-\infty}^{+\infty}d^3xK(x_0;-i\hbar\beta)$$のように結びつくことがわかる。

この実数時間から虚時間への置き換えはEuclide化(Euclidean)と呼ばれ、応用的な量子力学や場の理論ではしばしばでてくる。Euclid化を施したFeynman核をEuclid-Feynman核$$K_E(x,x_0;\hbar\beta)\equiv K(x,x_0;-i\hbar\beta)=\bra{x}e^{-\beta\hat{H}}\ket{x_0}$$として定義すると改めて分配関数は$$Z(\beta)=\int_{-\infty}^{+\infty}d^3xK_E(x_0;\hbar\beta)$$とできる。

Euclid-Feynman核は座標表示の波動関数を使って書き直すことができる。Fock空間の完全系を挿入すると$$K_E(x,x_0;\hbar\beta)=\bra{x}e^{-\hbar\hat{H}}\ket{x_0}=\sum_{n=0}^{n_{max}}\braket{x}{n}\bra{n}e^{-\beta\hat{H}}\ket{x_0}$$となる。固有方程式\(\hat{H}\ket{n}=E_n\ket{n}\)と波動関数の座標表示\(\braket{x}{n}=\phi_n(x)\)を用いると$$K_E(x,x_0;\hbar\beta)=\sum_{n=0}^{n_{max}}e^{-\beta E_n}\phi_n(x)\phi_n^*(x_0)\tag{1}$$とできる。

 

このような置き換えはただ単にFeynman核と分配関数を結び付けられそうだからというこじつけの理由で採用されたものではない。もし虚時間を無限大に飛ばす極限\(\hbar\beta \to \infty\)を考えると\(\beta\)は逆温度なのでこれは物理的に低温極限をとることと等価である。そのためこの極限の下でEuclid-Feynman核には基底状態のエネルギー寄与だけが残ることが期待される。これが実際にそうであることを証明することができる。証明は以下の通り。

証明) (1)式を展開すると

$$\begin{align}K_E(x,x_0;\hbar\beta)&=\phi_0(x)\phi_0^*(x_0)e^{-\beta E_0}+\sum_{n=1}\phi_n(x)\phi_n^*(x_0)e^{\beta E_n}\\ &=\phi_0(x)\phi_0^*(x_0)e^{-\beta E_0}\times\left(1+\frac{1}{\phi_0(x)\phi_0^*(x_0)e^{-\beta E_0}}\sum_{n=1}\phi_n(x)\phi_n^*(x_0)e^{\beta E_n}\right)\end{align}$$

両辺の対数をとると

$$\log K_E(x,x_0;\hbar\beta)=\log\left(\phi_0(x)\phi_0^*(x_0)\right)-\beta E_0+\log\left(1+\frac{1}{\phi_0(x)\phi_0^*(x_0)}\sum_{n=1}\phi_n(x)\phi_n^*(x_0)e^{-\beta (E_n-E_0)}\right)$$

さらに\(-\beta\)で両辺を割ると

$$-\frac{\log K_E(x,x_0;\hbar\beta)}{\beta}=E_0-\frac{1}{\beta}\log\left(\phi_0(x)\phi_0^*(x_0)\right)-\frac{1}{\beta}\log\left(1+\frac{1}{\phi_0(x)\phi_0^*(x_0)}\sum_{n=1}\phi_n(x)\phi_n^*(x_0)e^{-\beta (E_n-E_0)}\right)$$

となる。ここで\(\beta \to \infty\)の極限をとると第2・第3項は共に0へ収束する(第2項目は\(\beta^{-1}\)で収束し、第3項目は\(e^{-\beta}\)で収束する)。よって残る項は第1項目のみ。

$$\to\quad\lim_{\beta\to\infty}\left(-\frac{\log K_E(x,x_0;\hbar\beta)}{\beta}\right)\quad//$$

このようにEuclid化は低温極限の下でFeynman核を通して基底状態のエネルギーを抜き出すことを可能にすることから有効な置き換えであると言える。一方これと同じ議論をFeynman核そのものに対してすると位相に虚数単位を含むために低温極限の下でFeynman核は振動してしまい基底状態を引き出すことができない。

今回はここまで。Feynman核についてその概要を見たので次回からは具体的なケースでのFeynman核の計算に移る。

更新スピードはなかなかに遅いですが頑張ります…(苦笑)

 

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素粒子兄弟
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素粒子物理学を研究しています。
物理学を「面白い学問」で終わらせないこと、そこから「人生のなかで核心となる精神」を学んで生きることが僕の哲学です。

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